★トルコ(イスタンブール)



 イスタンブールは、その日、固そうな雲に覆われていて、飛行機がその雲の中に飛び込むと、もうすぐ下に滑走路が見えた。ほとんどアクロバット的に無事着陸したものの、その後の飛行機の発着は、すべて中止されたので、実に滑り込みセーフの入国だった。


Istanbul

 私とモンカが街中に着いた時には、もう日もすっかり落ちてあたりは真っ暗で、そこに大勢の人達が行き来していた。
 私達ははやばや安宿を見つけて、さっそく夜のイスタンブールへと繰り出したのでした。まずは腹ごしらえにレストランで、ドネルケバブを注文。これが日本の妙に味の薄い野菜や肉とは大違いで野性味たっぷりで大変うまいのです。
 それから、私達はにわかトルコ人となって数日の間この街を徘徊することになったのです。ここでは、どこでも飲める小さなグラスで飲む甘いターキッシュ・ティーは私達の必須アイテムでした。
 昼間、気の向くままに歩いていたら、動物園に入りこんだことがあったのですが、そこにはなんと犬や猫も檻に入っていたのでびっくり。その猫はアンカラといって片目が青、もう一方の目が茶色の、日本だったらペットショップにいるような毛足の長い白猫でした。子供が猫にピーナッツをあげていたのがなんだかおかしかった。


ankara cat

 街には、おもに子供の靴磨きがたくさんいて、歩いていると何度も声を掛けられる。あまりしつこいので、そんなときは「アッラー・アクバル」(神は偉大なり)と言うと困ったような顔をして皆退散していくのでした。商売熱心だけれど、イスラム教徒としてはどうも気分がよくないらしいのだ。
 ガラタ橋には何件もの店があり、そこで魚のサンドイッチを食べた。フランスパンにあつあつの焼き魚にレモンをジュッと絞って、玉葱やトマトといっしょにはさんだもので、なかなかおいしいものでした。


fish sandwiches

 ガラタ橋から、さらに急な坂を登ったところに、ガラタ塔と言うレンガの塔があり、そこから夜景を見た。その帰りに、モンカがこの近くにゲネルエブという城壁に囲まれた娼婦街があるので、ちょっと覗いていこうというのです。
 場所はよく解らないまま、だいたいこの辺りと見当をつけて歩いていると、だんだん同じ方向に歩いていく人が増えてきて、やがて真っ暗な中に黒山の人だかりが見えてきた。そこは娼婦街に通じるたった一ヵ所の入口で、なぜか警官がボディーチェックをしていて入るのはなかなか大変そう。どうしようかと考えていると、突然パンパーンという音がして、今まであんなにたくさんの人がいたのに、それが蜘蛛の子を散らすようにサーっといなくなってしまった。
 警官の隙を狙って出口から潜り込もうとした人がいて、それに対して威嚇射撃したものだったのでしょう。もういきなりだったので、何が何だか分からないままその場を逃げたのです。今から思うとちょっとゾーとする体験でした。
 私達の泊まったホテルのまわりには、色鮮やかに季節の野菜や果物を並べた八百屋が多かったのですが、店の外に捨ててあるゴミの所にいつもペルシャ猫風の猫がたくさんいて撫でてやろうと近寄るとさっと逃げてしまうのです。それを見ていた八百屋のお兄さんが、一匹の灰色の毛玉みたいな子猫を捕まえてくれたのです。わあっと喜んで受け取ると子猫は九死に一生とばかりに爪をたてて跳んで逃げてしまいました。


a vegetable store

 夜道を歩いているとなんだかにぎやかな音楽の聞こえる店があって、その前ではさかんに客引きが通りを行く人に声を掛けている。「いくら?」と聞いてみるとなんだか高そうな事を言っているのだけれど、とにかく中に入ってみることにした。
 薄暗い階段を上がっていくと、案内されてテーブルについた。ほとんどの人が飲んでいるラクーというお酒を一杯だけ注文した。奥では太った男の人があぐらをかいて座り、エスニックな楽器の演奏にあわせて歌を歌っていた。酔っぱらったお客さんが踊りながらその歌い手の胸元にお札を差し込んだりしている。
 私達のテーブルにラクーと水の透明なグラスが、トントンとふたつ並べて置かれた。水をラクーの中に少しずつ混ぜて、カルピスみたいに白くなったのをチビリチビリとなめながら、お店の中をよく見渡した。お客の感じはどうみても普通の人ばかり。とても高い店って感じではないのです。
 いよいよ不審に思ったモンカが、隣で楽しそうに手拍子をとっている人に、ラクーを指さして、「これ、いくら?」と聞くと、さっき店の前で聞いたのとは全然違う安い値段を言ったのです。日本人の観光客と思ってふっかけてきたようなのです。とにかく私達は、しばらくの間しらんぷりしてそのままお店の雰囲気を楽しんだ。
 さて、そろそろ行こう。ボーイを呼んで会計を頼むと、ハイッと高い値段を書いた紙を持ってきた。そこでモンカが、隣の人から聞いていた値段を言うと、そのボーイは、あれれっという顔をしたが、そのお金を受取った。
 こんなささいな事件が続いたイスタンブールの旅でした。
 

 
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